漢の国の大将軍韓信は、若い頃ニートだった。毎日プラプラしながら遊んで暮らしていたある日、町のヤンキーに絡まれて、「オラァ韓信、ワイの股をくぐれや!」と言われ、韓信は素直にヤンキーの股をくぐった。
以来、韓信は「股夫」と呼ばれ馬鹿にされ続けたが、その後、みるみる出世して、漢の国の礎を作ることとなった。この故事から、志のある者は小さなことで人と争ったりしないことを、 「韓信の股くぐり」という。
アンニョイな夜。ワタクシは、都知事選への出馬準備のため、体力を温存しておこうと早めに床に就いていた。
エビのように、体をピクピクさせながらトランス状態に落ちていると、近くで
「バフッ!」
と爆破音が鳴り響いた。トランス状態から回復して、体を起こしベッドの周りを確認したが、特に変わったことはない。ワイフと娘がいつものよう爆睡しているだけだった。
以前から、週に2・3回深夜に限って、小規模な爆破音が聞こえたような気はしていたのだが、気のせいだろうと思っていた。
が、今回はベッド全体に振動を感じるレベルであり、ワタクシは家族を守るためにも、原因を究明することにした。
ちなみに、すでにお気づきかと思うが、我が家で起こる怪奇現象の犯人は、ほぼワイフであり、今回の容疑者Xもすでに特定している。
容疑者Yの娘氏の可能性もあるが、彼女の小さな体から有感地震レベルのガスを発生させることは、どう考えても不可能であることから、ワイフの寝屁が原因であることは、ほぼ間違いないと思われる。
以前、トイレから聞こえて来るワイフの破裂音に悩まされ、音姫を導入することでなんとか不快指数を下げることはできた。
が、今回の寝屁については、なんの前触れもなく深夜に突然、闇夜を切り裂いて発生することから、ワイフに厳しい自制と規律を求める必要がある。ワタクシは、慎重に対応するため、名著「ビジョナリーカンパニー」を開いた。
枠組みの中の自由と規律
歴史をみていくと、おどろくほどの規律をもって、見事に隊列を組み、正確な足取りで悲惨への道を歩んだ組織がいくらでもある。重要なのは規律自体ではない。
みずから規律を守る人たちを集め、この人たちが徹底的に考え、その後に、針鼠の概念に基づいて設計された一貫したシステムの枠組みのなかで、規律ある行動をとることが重要なのだ。
「ビジョナリーカンパニー②」202ページより引用
なるほど。屁をこくべからず!という規律を作ったところで意味はないということか。大切なのは、我が家の一貫したシステム、つまり笑いの絶えない家庭の中で対応する必要があるということなのだ。
ワタクシは、ワイフの寝屁を感知した場合、すぐさまベッドの上で活きの良いエビのように跳ねることにした。娘が部屋で屁をかました場合は、ダチョウ倶楽部のネタのように小幅なジャンプをする規律を自らに課すことにした。
以来、ワタクシが必ずジャンプするものだから、娘氏が喜んで率先して放屁するようになったが、笑いの量は増えた。陰湿に犯人捜しをして疑心暗鬼に陥ることなく、屁をこく自由も規律も我が家では保たれることとなった。
ワイフに寝屁をかまされる恥ずかしい旦那として、ワタクシが辱めを受けることもあるだろう。しかし、韓信がそうしたように、たとえ「股夫」と侮辱を受けたとしても、ワタクシは大志のために、ワイフの股をまさぐる股夫となるつもりだ。
ワイフと子供の笑いの絶えないビジョナリーな家庭を作る大志を抱いて、今夜も背水の陣で股くぐりをしようと思う今日この頃である。
では、股!(パクリ)