介護施設でバイトしていたとき、よく送られてきたDMが「遺品整理」だった。近年、家族のつながりが希薄になる中、需要が拡大しているそうだ。
施設の利用者さんに見られるとキケンだったので、来てもスグにゴミ箱にポイであったが、実際にお客さんになりそうな人が多くいたのを覚えている。
アンニョイな連休。人が遊んでいる時こそ、何もせずに過ごすのが本当に贅沢な時間の使い方なのだと、自己催眠をかけているのでどこにも出かけない。が、贅沢な嫁姑も暑さにかまけて1ミリも動かないので、嫁の実家に出向いて片づけをすることにした。
先週の嫁の部屋に続き、本日からは故・舅氏の部屋、つまり遺品整理である。舅氏は若いころトラック野郎で日本各地を走り回っていたそうだが、ワタクシの義理の父となった時には、すでに寡黙な優しいおじいちゃんとなっていた。
ある日突然、ポックリ逝ってしまったので、大して親孝行ができなかったのが心残りではあるが、初孫の顔を見せてあげられたので恨まれてはいないと勝手に思っている。
さて、舅氏の部屋。不思議なことに嫁の部屋と同じく書類や雑誌なんかが整理されることなく、ただひたすらに積み上げられている。
デジャブのように、嫁の部屋と同じ作業を延々と繰り返すだけの作業。ただ、洗練された山師であるワタクシには、この部屋から漂う老人臭に似たお宝のニオイを敏感に感じ取っていた。
そして、その予感は的中し、初日から大量のお宝をゲットしたので発掘品を以下に記す。
- 写真集 昭和天皇(朝日新聞社)
- 自民党谷垣幹事長のサイン
- 法華経
- 大きなスピーカーを搭載した真っ黒でナウい車のスナップ写真
- 駐車違反切符を切られたことに対する警察への具申書(自筆)
- セックス・○ッズ大全(写真)
一体、舅氏がどのような人生を歩んで来られたのか定かではないが、政治や宗教に対して独自の主張を持たれていたようである。
その他にも、リアル過ぎて書けないお宝も出てきたため、家族として表には出さないことを英断し、そっと処分しておいた。こんなところも嫁は舅氏によく似たのであろう。
結婚前から、嫁や姑氏が故人の情報を必死に隠そうとしていたような気がしていたが、なんとなく理由がわかった。
もし、ワタクシが舅氏と正反対の主義主張を持っていたのなら、問題が発生することを恐れたのだと思う。気持ちはわからなくもないが、ワタクシの尊敬するD・カーネギー先生の名著「人を動かす」には、こんなことが書かれている。
マーティン・キングは、平和主義者として世に知られていたが、当時アメリカの黒人として最高位をきわめた軍人、ダニエル・ジェームズ空軍大将を崇拝していた。平和主義者が軍人を崇拝する矛盾を指摘されたキング博士の答えはこうだった。
「人を判断する場合、わたしはその人自身の主義・主張によって判断することにしているーわたし自身の主義・主張によってではなく」。
「人を動かす」181ページより引用
なるほど。ワタクシがイケイケの共産主義者であったとしても、舅氏を尊敬することになんら問題はないということか。ちなみに、ワタクシは家族主義者で新興宗教を信仰し、スポーツ平和党を支持している。
つまり、故人がどのような主義主張を持っていたところで、尊敬する父親であることに変わりはない。一本筋の通った気骨のある義父であったのだと、ワタクシは胸を張って言える。
そして、ワタクシの愛する嫁を、この家事をしない嫁を立派に育ててくれてたのだ。おかげでかわいい娘も誕生した。故人がいなければ、ワタクシの今の幸せがないことは確かである。セックス・グッ○を使って、何をしたかったのかは定かではないが。
ワタクシの主義主張を徐々に理解し始めた嫁姑は、舅氏の棺桶にワタクシが泣きながら花を手向けて以来、舅氏の情報を隠そうとはしなくなった。以来、なんだか本当に血のつながった家族の一員になれた気がしている。
そして、幸か不幸かワタクシは舅氏の遺品を整理するハメになっているのである。とりあえず、お宝もゲットできたし良かったことにしておこう。
人がどのような主義主張を持っていようとも、少なくとも父があり母があり家族がある。何かと争い事が絶えない世の中ではあるが、せめても家族とは笑い合える世の中であってほしい。
遺品の中に、特に大切にしまわれていた嫁の命名書を眺めながら、そんなことを思った梅雨明けのよく晴れた日であった。